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星読み師たちの総合ブログ : 某 件太郎 アーカイブ

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の続き。





 

「 手術は成功です! 」


緊張のあまり変なふうに硬直し、

どうにも不自然な表情でその雁首を並べていた僕たち3人は、

待ち望んだ担当医の言葉に

胸をなでおろした。


執刀も務めた担当医によると、

検査映像では解らなかった血管の状態だが、

実際の血管壁は硬化こそしていないもののかなり薄くなっており、

それゆえに小さい動脈瘤でも破裂する可能性が高い状態だった。

通常動脈瘤は、

大きさが6mm以上になってから破裂するため、

破裂箇所がわかりやすくクリップでつまみやすいが、

今回の母のように2mm程度の瘤が破裂すると、

クリップする際、目標が小さすぎてつまみにくい上に、

周りの血管にも影響をあたえる危険性がでてくる。

破裂範囲こそ小さいが、それゆえに非常に処置のしづらい状態だったらしい。

 

手術成功の第一声を聞いた僕たちは、

胸をなでおろした。


しかし担当医の険しい表情は崩れない。

意識的に冷静さを保っているという感じではなく

率直に患者が依然危険な状態にあることは変わりないことを物語っていた。


「これから2週間余り、予断は許しません。

SCUを出て一般病棟に移るには一ヶ月以上かかると思ってください。」


一瞬、僕たちのほころびかけていたその顔は

再びこわばった表情に押し戻された。


予断を許さない理由としては、

破裂箇所をクリッピングしたことによる、

周囲の血管(血流)への影響が未知であること。

脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく)による

脳梗塞の危険性を否定できないこと。

水頭症の可能性。

などがある。


脳血管攣縮とは、

一旦血液に浸った脳内の血管が縮むことである。


血管は、血液に浸ってから1週間から2週間で縮みはじめる。

血管が縮むと当然にして、

管の経が小さくなるわけだから、

それによって血流が滞る。

血流が滞るとその箇所で、

詰まる、つまり脳梗塞を起すという仕組みである。


ちなみに3週間ほど経つと一旦攣縮を起した血管は再びもとに戻るらしい。


時期にしてたった1週間ほどの攣縮のピーク、

それが危険なのである。

 


こういった危険性の説明は僕たち親族側にとって、

かなりの精神的プレッシャーとなる。


しかしその詳細な説明をきくことで、

命の危機というよりも、

現状、病状、確率として、

客観的に事物のみを認識できるのもまた事実である。


僕たちは担当医から聞いた説明をほぼそのまま、

控え室で待機していた親族たちに伝えた。


そして今先ほどの自分たちと同様であることを確認し頷きあいながら、

一様にして期待から不安への変化をみせる親族たちの表情に共感した。

 

一つのハードルを越えたという実感と

越えるべきハードルの高さへの不安、

これは自分との戦いでもあることを僕は強く感じながら、

疲弊した心身をひきずって、祖母宅への帰路についた。

 


次回に続きます。

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手術が始まってから6時間が経とうとしていた。

はじめは言葉を掛け合い、

気遣いから他愛もない話題をひねり出していた

十人の親類たちもさすがに疲弊してきている。


一見ひとりきりで待つよりは大勢いてくれた方が気がまぎれる、

ような気もするが、

まあ人にもよるだろうが、

本当は、実のところは、

多くても2,3人で充分である。

10人は多すぎる。


日常的な付き合いがない分、余計に気を使う。

まあそれでも、母や僕への気遣いから

こうしてきてくれているのだから、

むしろ有難いことであり、

そんなことはいえないのだけれども・・・


いわゆる手術待ちに僕は慣れてはいた。

ここ10年、友人が若くして膠原病をわずらい手術を繰り返している。

成功生存率20%といわれる手術にも何回か立ち会った。


わかったことといえば、

心配しても使用がない。

なるようにしかならない。

あれやこれやと思いをめぐらせてみても、

意味もなく疲弊するだけである。


疲弊して、手術の成功率があがるのであれば、

いくらでも余計な思いもめぐらし、

疲労困憊してもかまわないのであるが、

こちらの疲弊率なんてものは、

手術の成功率には一向に関係ないのだから、

まったくもって夏炉冬扇な蛇の足なのである。

 

ただ祈るのみ。

 

これは唯一、無駄ではない気がする。


自分とて一介の占い師である。

運命学の基本は学んだつもりである。

これはあくまで持論であるが、

避凶(凶を避ける)なんて無いのであり、

要はなるようにしかならないわけである。


やや仏教義的になるが、

“ あきらめ ” が肝心なのである。

あきらめとは “ 諦め ” とも書くが、

古語では “ 明らめ ” と書く。

事物を超客観的に観察し、認識し、対処することであり、

つまりはあるがままに観るということである。


人の生死に執着することは、

長い目でみると実に意味をなさないこと、

一時の喜びが、やがては数倍の悲しみと苦痛によってかえってくることを

教義としては知っていた。

 


今回もそうなのかもしれない。

因縁なのかもしれない。


この手術が成功すればそれでよし。

甲斐なく母が天寿をまっとうすることになっても

それはそれでよし。

生命である以上、死は平等に訪れるのであり、

その差は時期の早遅だけなのだから・・・

 


無言の多勢にかこまれながら、

僕は自分にそう言い聞かせていた。

 


「今終わりました!、ご家族の方、こちらへどうぞ。」

看護師の声が静寂を破った。


患者搬送用エレベーターの前に一斉に移動した。

二十数分も待っただろうか

ようやく母がエレベーターから運び出されてきた。


搬送用ベッドに横たわる母の頭部は

包帯ともガーゼともつかぬ物体で厚く包まれ、

頭頂部付近から2本のチューブがでている。

ベッド脇からは点滴のためであろう管が伸び

口には酸素マスクが装着され、

表情はわからない。

麻酔のため、当然意識もない。


エレベーター左にあるSCU(脳卒中集中ケアユニット)に

運び込まれていく母の、

得体も知れぬ白い物体に包み込まれ、

それでもかろうじて生きているであろう母の姿をみていると、

目頭に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。


しばらくして僕とYと祖父の実弟のHの三人が

集中治療室横の個室に呼ばれた。


今長時間の手術を終えたばかりの

担当医からの説明である。

 

 

次回に続きます。


 

 

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午前中には検査が行われているはずだった。

その検査次第で手術が可能かどうかが決まる。


手術が不可能であるという結果だった場合・・・

当然だが、それまでである。

 

病院側からの連絡がなにもなかったということは、

午前中の検査の結果が良好(手術可能)だったということ。

 

午後2時からの手術に立ち会うため、

僕とYは正午過ぎに病院に向かった。

 

かなりの余裕を持って病院につくと

さすがにまだ親類たちは集まっていなかった。

手術の予定時間が近づくと昨日も来ていた10人あまりの親戚たちが

次々と来院した。


ただでさえあまり広いとはいえない家族控え室はみるみる人で満たされていった。

 


手術名 右開頭脳動脈瘤クリッピング術(遮断)・ドレナージ術

 


破裂した脳動脈瘤をクリップで止血し、

脳内にたまった血液を抜くために

外部から脳内に管を2箇所より挿入する

という処置らしい。


今回の母の場合、

破裂した動脈瘤が異常に小さいために

かなりクリッピングしにくいらしく、

実際に開頭してみないとなんともいえないらしい。

 

そして手術開始時間が来た。


昨日、1回目の検査のあと集中治療室に入っていく母をみた時、母は

「ありがとう・・・」

と涙まじりの言葉を口にしていた。

 

今日も母は手術室へ向かうため、移動式ベッドで集中治療室から

出てくることになっている。

僕たちはここで手術へ挑む母を見届けることになる。


親類一同が集中治療室前に集まる。


母が出てきた。


みんなが激励の言葉をかける。


母からの返事はない・・・

 


後日になってわかったことだが、

前日の段階ではなんとか意識を保っていた母だが、

手術当日は意識がなくなっていたらしい。

つまり手術直前、すでに母はかなり危険な状態だったのである。


無言のまま運ばれていく母の姿に

僕たちは不安を掻きたてられざるを得なかった。

母が言葉を発しなかった理由を全員が憶測した。


麻酔によるものだという結論を

とりあえず出すことで、

みんな自身を落ち着かせていた。

椅子に腰をおろす者、

食堂に行く者。

畳部屋で横になる者。

思い思いにこの張り詰めた時間を過ごし始めた。


苦痛の時間だった。

じわじわと疲労が蓄積されていった。

そんな中、昨晩医師から直接説明を受けた僕とYは思い返していた。

 


現時点では手術成功率は予測不能。

手術成功後の極めて高い再出血、後発性脳梗塞の危険性。

脳ダメージによる後遺症と退院後の水頭症の可能性。


当時点で生きるために母が越えるべきであったハードルである。

 

 

次回に続きます。
 

 

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の続き。

 

 

容態の急変があれば連絡します。

去り際に担当医が言った一言に、

すでに手元の携帯電話から意識が離れなくなっている自分に

自身で気づきながらも

Yの車で病院を出たのは19時近くだった。


自宅で待つ祖母とアンチャンはまだ夕飯も済ませてないだろう。

刺身やとんかつ、ひじき煮など

手を掛けず食べられる惣菜を最寄のスーパーで買い込み、

祖母の家へと足を向けた。


家に着くと、

一足先に病院を出た親類が到着していた。

祖母とアンチャンはすでに母の状況を聞いたらしい。


だが祖母は、

親類たちが何人も集まっているこの状況が飲み込めない。

「たいしたつまみもないけど、まあビールでも飲んでいきなさいよー。

まったくこんなときにM(僕の母)がいないと困るわ。」

とひとり美味そうにビールを一杯やっていた。

今聞いたばかりの母の話をもう忘れているのだろう。

親類たちも認知症のことを知ってか、

苦笑いしながら遠慮していた。

 

「ところで四十九日の件だけど・・・」

そう帰り際に切り出したのはYである。

考えてみれば祖父がなくなって、まだ30日しか経っていなかった。

3週間後には四十九日の法要を控えていた。


Yは性急にことを進めたがる性分らしい。

悪気はないのだが、さすがに話が早すぎる。

「四十九日の件については任せます。」

この話を今進める余裕が僕にはなかった。

僕はYに一言だけそう告げた。

 

親類たちは口々に励ましの言葉をかけて帰路についた。

僕は形だけの食事を済ませ、

繰り返し同じ質問をする祖母に

繰り返し現状を説明した後、

23時過ぎ、ようやく居間にあるコタツで横になった。


この日から母の携帯電話を預かることになった僕は、

肌身離さず2つの携帯を持ち歩くことになった。

病院側には僕と母そしてYの携帯の3つの電話番号を伝えてある。

病院からの着信は母の容態に予想外の変化があったことを意味する。

 

この日の夜はさすがに長かった。

携帯電話の着信音量を最大に設定し、

充電量を満充電近くに保ち、

枕元においての睡眠だった。


小さな物音にも意識が反応した。

明け方の新聞配達の音に飛び起き、

玄関先まで確認しに行った。

最後に時計を見たとき、

針は午前6時をさしていた。


意識が遠のき気が付くと午前9時だった。

睡眠不足でボーッとする頭で、

2台の携帯に不在着信の履歴がないことを確認し、

Yに連絡をとった。


次回につづきます。


 

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の続き。

 

 

本家の嫁として嫁いできた祖母は

若い頃から農業に勤しみながら

富山の薬売りとして全国を行商する祖父の留守を守ってきた。


とかく亭主が留守の家を軽視する風潮の土地で

その負けず嫌いの気質をもって

ほぼ一人で農業に労使し、

並み以上の人づきあいもこなしてきた。


齢六十を前にして、

くも膜下出血を患ったが、

運よく順調な回復を見せ

目立った後遺症もなく日常生活に復帰した。


その後、長年勤しんできた農業も縮小し

徐々に体に負担のかからない生活に切り替えていった。

70歳にして脳血栓を発症し、

人生で2度目となる生死の境をさまよったが、

無事生還し親族をほっとさせた。


その頃からであろうか。

いわゆる“ボケ”の気配が現れだしたのは。

会話の節々にその傾向があらわれだした症状は

数年の月日とともにゆっくりと

しかし確実に進行していった。

 

モノを隠す

50数年も前のことを今のことのように話す

同じ質問を同じ人物に何度もする

 

これら祖母が取りはじめた行動は、

聞けば典型的な認知症の傾向らしい。


それでも間近でその問題に直面した、

僕たち親族からしてみると、

その現実をなかなか認めることが出来ないものである。


そうした祖母の行動は

一見不可解な行動に思えるのだが、

寝食をともにし

毎日のように会話を繰り返していくと、

ある結論にたどりつく。


モノを隠すのは、祖母が嫁いで来て間もない当時、

嫁に対して厳しい態度で臨んだ時代だったこともあり、

満足に食事を与えてもらえず、

姑の目を盗んで、

どこぞやに隠しておいて後になってからでも食べなければ

とてもじゃないが農業という力仕事を

十分にはこなしてはいけなかった経験からであろう。


いまや認知症となってしまった祖母にとって、

“隠す”行動は故意というよりも

生きていくために若き日に身に付けた方法であり、

もはや無意識のうちの癖であるように思える。


そして何よりも祖母の根底にあるのは、

 

亭主の留守を立派に守ってきたという誇り

農家にして薬売りという商売で稼いだ亭主への誇り

 

なのであり、

それが今では満足に出来なくなったという

かつての自分に対する強烈な劣等感が

現在の祖母を責めたてている。


そしてもう一方の誇りである亭主もすでにいない。

しかし亭主が他界したことが理解できない。

理解できないというよりも、

認めたくないのかもしれない。

自分の“今”を否定しないために。


かつての誇りが今の自身を支え、

それが“かつて”であったことに

おぼろげではあるが気付き、

それに対して劣等感を感じ、

心の支柱を守るべく現実を否定する、

か弱く迷い多き姿が今ここにある。


揺らぐ柱を心に抱え、体力も落ちてきている。

本来ならば何時、他界してもおかしくはない。

 

しかし、そんな祖母の精神を

この現実世界につなぎとめているものがある。

アンチャン(息子)である。


祖母にとって知的障害をもつ息子は手のかかる子供だった。

しかしそれゆえ自分なしでは生きていけない

いとおしい存在でもあった。


この子がいる間は・・・

 

もはやか細くなり、今にも折れそうな祖母を唯一支えているのだろう。


83歳の母の57歳の息子に対する一念がである。

 

次回に続きます。

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