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死の影に、生命の灯をみる ― 三島由紀夫『葉隠入門』を読む

死の影に、生命の灯をみる ― 三島由紀夫『葉隠入門』を読む

「武士道とは死ぬことと見つけたり」――この一句に、私たちは時に身をすくめる。


死を語ることは、現代では不吉なことのように避けられている。

だが三島由紀夫は、この『葉隠入門』で、死を語ることによってこそ生を照らそうとした。

『葉隠』の作者・山本常朝は、戦のない平和の時代に生きた人である。

死を目前にして生きる術を学ぶことができなかった彼は、逆説的に「いくさなき世」においてこそ「死を覚悟する」ことの意味を問うた。

死を思うとは、すなわち生を鮮やかにするための精神の鍛錬だった。

三島由紀夫は、その思想に深く呼応した。
彼にとっての「死」とは、破滅ではなく、究極の自己確認であり、美の完成でもあったのだ。


彼が『葉隠』に見たのは、死を恐れぬ強さではなく、死を意識して初めて感じられる生の深みである。
それは、日々少しずつ古い自分を脱ぎ捨てる行為――潜在意識の深層で、信念を新しく塗り替える営みにも似ている。

大きな事故、病、別れ、あるいは静かな夜の不安――
私たちは小さな「死」を幾度も経験しながら、生き直している。
死を見つめるとは、恐怖を育てることではなく、「いまここに生きる自分」を確かめることなのだ。

「日々死にくるひ」とは、生を磨く日々である。


死を見つめた者だけが、真に生を愛せる。


その沈黙の真理を、三島由紀夫は生涯を懸けて語りかけている。

現代における葉隠精神 ― 平和の時代に問われる「死の覚悟」

私たちは、もはや刀を手にすることのない時代を生きている。


けれど、情報と競争の渦の中で、心を斬られ、志を失いかける瞬間は、幾度も訪れる。


そんなときこそ、『葉隠』の言葉が静かに響く――
「毎朝毎夕、改めては死に」と。

それは、現代における「精神の修行」である。
生き急ぐ日々の中で、あらゆる欲望や恐れ、虚飾をいったん手放し、
“
今日が最期の日だとしたら、自分はどう生きるだろう”と問う。


その一瞬、心の奥に澄んだ風が吹き抜ける。


死を意識することは、けっして暗い思索ではなく、
本当に大切なものを選び取るための透視の力なのだ。

三島が『葉隠入門』を通して遺したのは、
「死を恐れぬ生」ではなく、「死を見つめながら生を選び取る勇気」だった。


その覚悟こそ、いまを生きる私たちにとって、
最も切実な“生の技法”なのかもしれない。

この記事を書いた人

あぐり

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