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「ハセガワ ミョウシン さま」  ☆☆☆ 魂の翻訳者・あぐりの独り言☆☆☆

まだ幼かった頃の私は、じっとしていることが何より苦手だった。大人の言葉には耳も貸さず、思いつくままに動き、気まぐれの風のようにその場を駆け回っていた。行儀が悪いとか、育ちがどうのといった次元ではなく、どうにも「世間」という型に収まりきらない子どもだった。

ある日、私は母に連れられ砂埃舞う田舎道をてくてくと歩かされた。辿り着いたのは、名もなき集落のはしにひっそりと佇む侘び住まい。母の目的は、そこに住まう「ハセガワ ミョウシン」様なる人物だった。占い師とも霊媒とも、なに者か定かでないが、近隣では「困ったときの頼みの綱」として知られた存在だった。

家の外観も、周囲の風景も、今となっては記憶の彼方に霞んでいる。ただ、一室に据えられていた祭壇の光景だけは、鮮やかに心に残っている。紙垂のような白い飾りが風のない室内で静かに揺れ、お祓いに使う道具や、おりんのような金属の器が所狭しと並んでいた。祭壇の周囲には、果物や米、祝儀袋が整然と置かれ、人々の感謝や祈りの気配が濃密に漂っていた。

以前、近所の小売店で金が盗まれたことがあったそうだ。そのとき「ミョウシン様」はこう告げたという。「お金の袋を下げて、西から東に出ていった。一週間もすれば戻ってくるでしょう」と。そして本当に、数日後に金は見つかった。なんでも、犬が咥えて運び去っていたらしい。真偽のほどは定かでない。ただ、その土地の人々は口々に「やっぱり、ミョウシン様はすごい」と言ったという。

さて、私のことで困り果てた母は、その日、何らかの“解決”を期待していたに違いない。私はといえば、不満げな顔で口もきかず、無礼極まりない態度をとっていたに違いない。そんな私を見て、母はきっと気まずそうな表情を浮かべていたのだろう。しかし、ミョウシン様は静かに私を見つめ、たったひと言、こうおっしゃった。

「何もかも、わかっていらっしゃる方だから…」

説教されるとばかり思っていた私は拍子抜けし、母もまた肩すかしを食らったような顔をしていた。

その後も私の素行は変わらず、やんちゃは続いた。しかし、あの夏の日から幾十年。ミョウシン様の顔は、今やぼんやりとしか思い出せない。けれど、あのときの穏やかな声とまなざし――すべておわかりの方だから――と包み込むように言われた瞬間の空気だけは、ふとした拍子に脳裏をよぎることがある。

親にすら見放されかけたようなあの頃、名前も知らぬその人は、なぜか私をまっすぐに信じてくれた。その無言の信頼が、今の私のどこか深いところに、静かに灯り続けているのかもしれない…。

この記事を書いた人

あぐり

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