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「もののあはれ」は、いまを生きる私たちの胸にも

「もののあはれ」と聞くと、むずかしい古典の概念に思えるかもしれません。
けれども、それは決して遠い昔の人だけの心ではないのです。

時をこえ連綿と受け継がれてきた日本人の魂にすでに宿っているものです。

例えば「鬼滅の刃」が何故あんなにも人の心を打つのでしょうか…。

あの物語は単なる勧善懲悪ではありません。鬼=悪という図式に当てはめられない世界です。

ややもすると、鬼を推す人、鬼のファンまで現れています。

鬼となってしまったものの中にも、悲しみや、美しい心根、人を愛する心を感じて多くの人は鬼にも涙するのではないでしょうか?

そんな繊細な心の感応を「もののあはれ」というのではないかと思います。

日常の中にも、そういった心が震える瞬間とはたくさんあります。

たとえば、仕事の合間にふと窓の外を見やったとき、
夕暮れの光に街が金色に染まり、胸がすっと掴まれるように静まる瞬間。

あるいは、帰り道で吹く秋の風に、なぜか涙がにじむとき。
大切な人の一言に、言葉以上の温もりや切なさを感じるとき。

それらすべてが「もののあはれ」です。

「からごころ」――理屈で説明しようとする心に囚われると、
私たちは「効率的に」「役に立つかどうか」でしか世界を測れなくなります。

またどう解釈するか、批評精神にばかり傾くとき、人の心は繊細な感性を失います。
しかし、ほんとうの心の震えは、役立つとか立たないとかを超えて訪れるものです。

だからこそ宣長は、『源氏物語』を読みながら、
「人の心に感じて、言葉も及ばぬところに『もののあはれ』がある」と言いました。

それはある意味、霊的な世界へ触れた時の魂の感応というべきものかも知れません。

言葉では伝えきれないものを、言葉にするには歯痒さと限界もあります。

ややもすると、「もののあはれ」とはこれこれこういうものだと説明し尽くして、それをわかった気になって安心する、ということを繰り返してしまいます。

いっさいの解釈をすて、批判をすて、ただただ現実を感じとる…。

そういった時、人間の魂は本当の再生を果たすことができるのです。

「もののあはれ」を感じるのはある意味死を体験し、その蘇りをなす好意なのかも知れません。

ふとした瞬間に胸に響くものを大切にできるかどうか。
その積み重ねこそが、人間らしく生きることに直結しているのではないでしょうか。

「もののあはれ」とは、特別なものではなく、
あなたの今日の中にも、すでに宿っている感情なのです。

この記事を書いた人

あぐり

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