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神無月~霜月(12)

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神無月~霜月(9)

神無月~霜月(10)

神無月~霜月(11)

 

の続き。





思いがけない母の電話で目を覚ました後、 

あんちゃん(叔父)と祖母との朝食と昼食をあわただしく済ませ、

14:00の面会時間にあわせて、

通りがかりの食料品店で母本人から言付かった、

“梅干”を買い求め、

母のいる病院へと向かった。

 

SCUの入口で例の入室の儀式を済ませ、

母のいるベッドへ行くと、

やはり母は大きないびきをかいて寝ていた。

昨日と変わらぬさも重病人然とした母の様子に、

朝に受けた電話がなんだか嘘のような気がした。


看護師が寝ている母の肩を叩いて起してくれた。

目を覚ました母は昨日同様、やはり“ろれつ”がまわっていない。

それはそうだろう、手術後1日や2日でそんなに回復するはずもなかろうに。

しかし一体、今朝の電話は急激に回復したかのような出来事だったのに。

 

 

聞き取りにくい口調で母は言った。


「アイ、スクリーム・・・いつものやつ。」


「え?」

また食べ物ことをいっているらしい。

その上、“いつものやつ”などといわれても、

僕と母は離れて生活してきたわけであるから、

母が日常、どんなアイスクリームを好んで食べていたかなど

僕が知るはずもなく、

そんな様を察して母は、


「ほら、ただのバニラの普通のやつ」


「え?」

僕にいわせれば、

“バニラ”は全て“ただのバニラ”なのであって、

一体この世の中に、“ただの”ではないバニラなんてあるのだろうか。

イヤ待て。ひょっとして“質”の問題なのか?

だとすれば特定の産地のバニラビーンズに厳選した

こだわりの逸品 みたいなのが、

“ただの”以外に該当するのであろうか?

そして果たしてそんなものがここいら辺に売られているのだろうか?


と一瞬、考えをめぐらしたが、

ああ、なるほど。

母にとって“ただのバニラ”以外のバニラとは、

“抹茶バニラ”だとか“チョコレート&バニラ”だとかの、

バニラ以外のナニカとの“混合バニラ”のことをいっているのだ。

それならば合点がいく。


だがしかし、母が言うところの、

“ただのバニラ”タイプにしてもメーカーによって

何種類かはあるだろう。

となれば他の混合物を含まない純然たる“ただのバニラ”でもあり、

かつ何のへんてつもない“普通のやつ”でもある、

この両方の条件を満たすバニラアイスクリームこそが

母が真に欲するところのもの、

ということになるが、


う~ん、普通のやつね~・・・。

 


笑いをこらえきれていない看護師の横で

眉間の皺とともに真剣に考えあぐねている僕をみた母は、


「すーぱー」


といった。

瞬時にすべての謎が氷解した。

 

「スーパーカップ バニラ味」


これこそが、

母が求めてやまなかったアイスクリームであったのだ。


いわれてみれば、


“ただのバニラの普通のやつ”


まさにそのものである。


あくまでも推測ではあるが

かといって例えば“ハーゲンダッツ バニラ味”

などを通常食としていらっしゃる御仁も

もちろん居られるであろうが、

あくまで主観だが

おそらく僕を含む日本の中流以下一般庶民諸君の間において、

この“スーパーカップ バニラ味”ほど

“シンプルバニラアイス”として定着しているものは類なく、

たしかに合い通ずるところのものである。

であればこそ、もっとはやくに気付けなかった、

自身の読解力の薄弱さと機転の利かなさを呪った。

 

かくして看護師にアイス購入の許可を得たあと、

下階の売店で

“ただのバニラの普通のやつ”こと

“スーパーカップ バニラ味”を買い求め、

再び母の待つ病室へ戻った。


買ってきた品を手渡すと、

母は付属の木べらスプーンで、

まるで子供のように口に掻きこもうとした。


しかし今さっきまで冷凍室にいた

ただのバニラの普通のやつは

木へらごときの掻き削りには

びくともしないほどの固形物である。

不動の本体をよそに

表面に付着した氷片のみが母の口へとこぼれていった。


その様子を見ていた看護師は気を利かせて、

ステンレス製のスプーンを持ってきてくれた。


頭部から出ている2本の管と点滴に阻まれ、

そうでなくとも術後の頭内部の安静を保つために、

寝たままの姿勢を維持しなければならない母にとって、

もはや独力で、この普通のバニラアイスを食べること

それすらが難題であった。


僕はアイスを母の手から取りあげ、

スプーンに少なめに乗せたアイスを母の口へと運んでやった。


おいしそうにアイスを頬張る母の姿に、

押し寄せる安堵感とともに

緊張が解けたのか、ぐったりと自分の体が重くなっていくのを感じた。

 

 

次回に続きます。

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